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Welfare Support|言いたい・伝えたい

No. 006

(社福)鉄道身障者福祉協会
  リハビリテーション誌 No.479 2005−12
 特集:在宅就労をしている障害者

IT社会における重度障害者の在宅就労支援を考える

特定非営利活動法人 バーチャルメディア工房ぎふ
      上 村 数 洋(理事長/支援チーフ)

1.はじめに

 近年、パソコンやインターネットの急速な変化にみられるように、IT産業の躍進にはめざましいものがあります。そうした動きは、障害者の就労に対する取り組みの上でも大きな変化となって表れようとしています。
 岐阜県においても、重度の障害者の就労に対するニーズが高まり、平成10年より、ITを活用した在宅就労の支援事業が始まりました。
 今回は、岐阜県における重度障害者の在宅就労支援の取り組みについて紹介をします。

2.在宅就労支援の取組みについて

2ー1 関わりの経緯
 25年前、交通事故により頸髄(C−4)を損傷し四肢の機能を失った私は、それまで地域の中で多くの人と関わりをもちながら続けてきた仕事を断たれたことによる途絶感と、当時3歳半だった娘を一人前に育てられるだろうかと悩み、苛立ち、自暴自棄な毎日をおくる反面、娘に働く父親としての姿を見せたくて、心の中で復職・就労への絶ちがたい思いを抱いていたことを覚えています。
 その後、失った手足の機能を補ってくれるリハビリテーション工学と出会い、パソコンというコミュニケーション手段の確保と共に、同じ障害を負った仲間と出会い、沢山の情報を手に入れる中で就労への模索を始めました。
 平成8年には、テレビのクイズ番組に出て得た賞金で4セットのパソコンを購入し、自主的に研修の出来る作業所を作ると同時に、県内で同じ様な試みを始めている人達に呼びかけ、問題点や課題の共通認識と連携・協力の出来る研究会も立ち上げました・・・
 フト気がついた時には、支援側として今の取組みの中で飛び回っていました・・・

2ー2 私達の取組みについて
 私達の取り組みは、岐阜県の重度障害者の社会参加支援事業の一環として、「一般の職場では就業の機会が得難い重度の障害者が、社会経済活動に参画し活躍できること」を目標にスタートしました。初年度は、県内の各市町村と代表的な企業、障害者を対象に意識やニーズ等の調査をし、その結果を基に在宅就労を希望する障害者を募集・選考し、一定の基準をクリアした人をワーカーとして登録しました。当初2名のスタッフと6名の登録ワーカーでスタートしましたが、今では、スタッフもアシスタントスタッフを加えて8名(内6名が障害当事者)、登録ワーカ15名(障害の内訳:頸脊椎損傷/8名、視覚障害/1名、脳性麻痺/2名、その他/3名)(毎年公募・選考)となり、就労支援事業をはじめ相談や情報提供、人材育成研修、普及啓発活動等々の取り組みを行っています。中でも、実務を通しての在宅就労の支援の取り組みにおいては、WEBサイトの構築、各種印刷物の制作、電算入力・ソフト開発をはじめ、研修や福祉系催しの企画・運営等々の仕事を行政や企業等から直接受注し、登録ワーカーの得意分野に応じて仕事を分担し、その進捗管理から納品に至る全てを、独自に構築したイントラネットを利用して行っています。また、仕事は2〜3人のチームを組み、病気や体調不良等でクライアントに迷惑をかけないよう、リーダーの下に進めています。それとは別に、在宅故に起こりがちな問題点を考慮して、出来る限りメンバー同士が直接顔をみながら情報や意見交換が出来る様に、月一回のミーティングをベースに、青空の下でバーベキューを楽しんだり忘年会も欠かさず開催しています。今年に入りギターバンドも結成し、演奏会なども開いています。最近では一人当たり平均100万円余の収入も得られるようになり、僅かずつですが税金を払うようになった登録ワーカーも出てきました。平成16年8月より 、更なる取り組みの拡大展開と、よりよい就労環境の実現を目指し、NPO法人として新たな一歩を踏み出しました。今は、何かと気を使うことが多くて大変ですが、努力し短期間に力を付けるワーカーの成長ぶりや、生き甲斐をみつけ日に日に変わる笑顔に触れることが何よりの支え、やり甲斐となっています・・・

2-3 取組みの中での問題点と課題
 取組みを初めて7年、私達支援側スタッフの素養不足もありますが、そこには常に、個々の持ち味や力量の違いに加え、先天性と中途障害、就労経験の有無、年齢等の上において、「意識面における格差」や「社会性の違い」という大変大きな壁が待ち受けていました。 例えば、限られた少人数の生活空間で過ごしてきた人の中には、社会経験の不足と比較対照の機会の少なさに加え、往々にして家族を含む周囲の褒めと守りの言葉の中で、自己の力量を錯覚したり自己満足に陥っている場合が多く、指導上での注意やアドバイスが素直に受け入れられないことがあります。一方、中途障害者の中には、受傷前の職業や地位、仕事との関わり方や意識から、組織としての動きから逸脱し、時として錯覚による行き過ぎや報告ミスからクライアントに迷惑をかけたり、信頼を失うことも・・・。
 これらは、明らかに職業的リハビリの機会の不足であり、わが国の障害者の雇用社会の貧弱さ、受け皿のないことによる教育方針の未確立に起因するものでり、今後、重度障害者の就労を考えた時、こうした教育や訓練の必要性と連携は決して避けて通れない重要な課題ではないでしょうか。
 また、就労の道具としてIT機器の活用を考えた時、小さい時からパソコン(以下、PC)をコミュニケーション手段としてきた重度障害者の問題点として、PCは何らかの方法で使いこなせるのに漢字や達筆な手書き文字が読めない、読めないが故に文意が把握できないとか、文字を形として認識しているが故の入力ミスも多くなり、本来簡単なはずの入力業務が一番手間取り、コスト高になってしまうこともあります。仕事によっては、Webの構築やDTP作業等の様に、PCの操作技術とは別に「美的センス」や「感性」といったことが強く求められるものもあり、仕事としてやる上においては、その研修方法や育成の面での対応と検討が必要となっています。
 在宅就労を考える上で何より先に考慮・対応しなくてはいけないことの一つに、仕事から来るストレスの問題があります。中でも人間関係、特に自立意識の上での家族を含む周囲とのギャップによるものは大きく、運転等が可能で一人で比較的簡単に外に出かけられる人の場合は良いのですが、障害が重く全介助の必要な人の場合には、忙しくなる程解消のための配慮が必要であり、その手段や方法を出来る限り早い時点で確保する必要があると思っています。重度障害者であろうと、一人の職業人として仕事に臨み、質の高い仕事をしようとすればする程、社会との関わり、人や物事との出会いを通しての社会経験に裏打ちされた高い適応力や判断力、柔軟で多様な見方が出来ることが求められる様になり、その為の外出や社会参加の機会作り、足の確保を含めた社会のシステム作り・インフラの整備も必要不可欠なものと考えられます。最近、主に中途障害のワーカーの中から、受傷後、努力し何とか仕事が出来るようになりフト気がついてみると、それまで一生懸命介護し支えてくれていた親が年をとり、このまま今の生活が続けていけるだろうかと言う不安の声を耳にするようになりました。「鶏が先か卵が先か」ではありませんが、私達もこれまでの支援の考え方を、在宅就労で必要な技術的指導優先からワーカー個々の生活の安定、生活基盤の整備も含めたものへと幅を広げる必要があるのではないかと考え、出来るところから手をつけ取り組みを始めていますが、就業面における完全な形での「受け入れる社会」が実現するまでの間は、在宅を含む就労支援の取り組みは、その公益性や世の中の景気の動向に左右され易い点からも、自由に伸び伸びと新しい分野に手を広げられるような環境の整備と、常に最低限の支援サービスが提供維持出来る為の保障部分としての公的な援助は必要ではないでしょうか。
 企業の中で、半ば義務的意識さえ出始めている法定雇用率重視の雇用制度をはじめ、社会の中でどう受け入れていくのかではなく、どうしたら働けるのか、どうすれば働き易いのかを含め、一人でも多くの障害者に就労の門戸を開くための、個々に合わせたきめの細かな配慮と取り組みが必要ではないでしょうか。同時に、職業教育を含む全ての教育分野との連携や、今一番騒がれているITとの関わりにおいても、真のIT社会の構築をめざす上からも、アクセシビリティの指針と就労環境における技術的支援、それに関わる研究や人材の育成も必要不可欠なものと思っています。

3 将来展望

 平成12年に、岐阜県の北欧視察団のメンバーに加わりスウェーデンに行ってきました。向こうでは福祉を始め、マルメ市のメディオン・サイエンスパークにある障害者の就労を支援する機関(Amu Gruppen Hadar)や、支援企業(Enter AB)でIT産業と障害者の就労の現状や支援の状況を視察してきました。スウェーデンでも、この分野に対する期待と取り組みに対する力の入れ方には目を見張るものがあり、我々の目指す方向性に自信がもてたと同時に、今後に対する責務の重さを実感してきました。
 現在、私達は日々の取り組みの中で、障害者の社会参加や就労に理解を頂く多くの企業から色々な仕事を頂くと同時に、IT部門での共同作業や、特例子会社設立に向けてのご相談・協力に関するお話を幾つか頂く様になりました。 また、私達はこれまで国の「重度障害者在宅就業推進事業」の支援機関の指定を受けて取り組みを展開してきましたが、今回「障害者自立支援法」が制定され、その中で就労支援の抜本的な強化が必要だとして、@新たな就労支援事業の創設と、A雇用施策との連携の強化が打ち出されていますし、障害者雇用促進法の一部が改正され、これまでの雇用制度に加え、@在宅就業障害者に対する支援と、A障害者福祉施策との有機的な連携が盛り込まれていることを追い風と捉え、大いに期待すると同時に、一人でも多くの重度障害者の新しい社会参加と就労の機会を創るお手伝いが出来ればと、更なる取り組みに向け意を強くしています。

4.おわりに

 障害者にとっての就労、とりわけ在宅就労においては、あくまでも社会参加の第一歩、就労への選択肢の一つとしてとらえるべきであり、在宅での支援に終止することなく、全ての障害者が、福祉の名の下での保護的対応に甘んじるのではなく、社会の一員としての意識と存在感、地位の自覚と確保に加え、職業的に自立することから来る責任と義務を自覚し、しっかりとした支えの上における生活の安定と、そこから生まれる自信と生きる力により自らの人生を掴み築いていく努力をしていかなくては・・・、行く時が来ているのではないでしょうか。
 受傷以来、常に就労への願望が捨てきれずにいた私でしたが、一気に「支援」という立場に立たされ、戸惑いを覚えながら日々の取り組みに専念をしている状態ですが、メンバーを始め多くの理解者や支援者に支えられる中で少しでも早く、一人でも多くの人達と共に、そんな時を少しでも早く迎えるために頑張りたいと思っています。

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